協会誌 vol.26-27より

2018年 自分を動かす力 意志する力

芸術と科学

サウンドヒーリング協会理事長 喜田 圭一郎
AIと脱炭素化

イギリスの先導により第二次世界大戦後の1948年に建国されたイスラエルは周囲を敵対国に囲まれ、男女を問わず国民全員が青年になると兵役につく義務がある。四方を海に囲まれ日常が穏やかな日本と比べると、全く違う環境に人々が暮らしていると言える。
そのイスラエルは今、第二のシリコンバレーと言われ、東京より少ない人口(約890万人)の国に5,000社を超えるスタートアップ企業がひしめき合っている。IBM、インテル、フェイスブック、グーグル他、米国の優良なIT関連企業が研究開発の拠点をイスラエルに置いている。国を超え、双方にいるユダヤの人たちがその中心にいるとも言える。研究開発の先にあるイノベーションは、自動運転そしてAI (Artificial Intelligence) だ。その優れた研究開発の背景には、兵役により一定期間軍隊で軍事のための科学技術を学び、その知識と技術を活かして起業する人材が多くいる事がある。元来優秀なユダヤ人の資質がその根底にあることは間違いない。自動運転は軍事技術から生まれたテクノロジーと言える。今までも世界の科学技術は軍事により加速したことは間違いない。 またパリ協定COP23で弾みがついた脱炭素化(化石燃料を使わない)への世界の大きな産業の潮流の中に電気自動車がある。脱炭素化は第二の産業革命といわれ、ドイツと中国の思惑から世界の流れはあっという間に電気自動車になってしまった感である。電気によって動く「自動運転の車」は、個性あるエンジンの音を聞きながら人が運転する楽しみもある「乗り物」から、人の出番を極力少なくして、静かに安全に移動するための乗り物に 変化しようとしている。車内環境の快適化や移動中の時間をより健康的に過ごす為に自然音を使う提案が必要だろう。
この自動運転も可能にする AI (人工知能) はこれから生活のあらゆる場面で登場しそうな社会の気配である。人は何もしなくていい時代になっていくのだろうか?生活が便利になるだけでいいのだろうか。またイスラエルだけでなく地球の様々な地域で敵と味方に分かれる状況をつくった人間がこのままでいいのか。互いに疑う心を変容させる手立てを考えなくていいのだろうか。

外側と内側の科学

人間は自然の一部であることを忘れてしまっただけでなく、とても大切な事が忘れられていると私は思う。最後のフロンティアと言える人間の内側への探求と開発を置き去りにして、人の外側の科学技術に依存するライフスタイルを続けて人は幸せになっていくとは思えないのである。地球の生命を創造した自然の力、細胞が生まれ替わる生命の力への探求を始める時ではないだろうか。そして自然を無償で人間の為に利用するだけでなく、「自然の力とのかかわり方」を一人一人が見直す時になったのではないかと思う。
全ての人の中に自分を超えたトランスパーソナルセルフがあると述べるイタリアの心理学者ロベルト・アサジョーリ博士は「巨大な自然の力を思うままに統制しようとして失敗し、自らの業績の犠牲者になりつつある人間にとって、その宿命的な危険を防ぐには、人間の内側の力を開発する以外に道はない。これこそが人類の生存の為に不可欠であり、これによって初めて人間はその本質を充実させ得る。/著書[意志のはたらき]より」と訴えている。
またチャールズ・チャップリンは映画「ライムライト」を通して「宇宙に満ちる力が、地球を動かし、木を育てる。君の中にも同じ力があるよ。さあその力を使う勇気と意志を持とう。」と私たちに呼びかけている。地球が自転し太陽の回りを公転する力、太陽が銀河の中を北極星の方向に運行する力、そして自分の中にある力とは何か?それは知性の科学だけでは追及できない領域にある力ではないのかとふと思う。物質だけを見る科学を超えた新しい科学が生まれる必要があるのではないだろうか。

生き方にふれる

昨年7月105才で人生を全うされた日野原重明先生は、科学としての医学で病気が直らない人も、芸術としての医学があれば、まだその人に役だつ事は沢山あると語っていた。芸術は人を超越した大いなる源の力を 人々が五感で感じられるよう、感性と技術を磨いた人から始まったのではないかと私は思うが、サウンドヒーリング協会の原点にはこの日野原重明先生から学んだ事が数多くある。日野原先生は音楽を医療や健康に活かすことが欧米より50年も遅れていると苦慮され、1986年に自ら先頭にたって音と人の関係を研究する「日本バイオミュージック研究会」を設立された。当時私が勤務していた会社がその事に関わらせて頂いたことで、日野原先生の「生き方」を当時学ばせて頂いた。この時の体験が今の会社を起業し、協会を設立した基にあると改めて感じている。「いのちと音楽」というテーマの講演会を企画して僭越にもお越し頂いた事や、かつての院長室にて体感音響の心地よさを喜んで頂き「最後までやり続けなさい」と励まされた事も思い出される。
病気を見るのではなく、人を見る医療の推進役だった日野原先生は「細胞自身の力が音で活性化されれば、それは素晴らしい治療が行われていることになる」「音楽は習慣づけによってなされる教育であり学問的知識を得るものではない」「いのちは自分に残された時間、大人は自分の時間を人の為に使いなさい」・・・などサウンドヒーリング協会の活動の基本にある多くのことを教えて下った。日野原先生から学んだ「音楽する精神」が生きているから、今までぶれずに来れたと感じている。

意志する力

サウンドヒーリング協会は、自分の中に眠る力に気づき、それを発揮して自分らしく輝いて生きる人づくりを目指している。音で病気を治し、音に健康を増進する力がある事を広めようとしているのではない。病気が治ること、健康になることはそのプロセスにある結果でありゴールではない。私が13歳のときに大病を患い、気功法により回復力を発揮する方法を学び、治療される立場、治してほしい心から、人に気功を行う立場になることで病気が完治した経験から学んだ事でもある。受け身のまま、与えられるものを受容するだけの立場でいるのでなく積極的に心を一歩前に出し、今の時間を創造的な心で生きるのである。「私は健康になる。そして・・をして皆を喜ばせる」など、自分の「命の生かし方」を決めることが、健康を増進する上でとても大切なのである。決める事で結果は後からついてくると確信する。

目と直感と心

自分に革命を起こす3つのメソッド「自然音」「小型体感音響」「呼吸と声」Harmonic Revolutionも誰の中にも眠る力を発動する為の道具であり、主役は人である。道具は使わなければ価値がない。「自然音」は自然界の生命の音を耳と皮ふから感じる事で自然の大いなる力と共鳴する事を意図している。「小型体感音響」は骨伝導により自分の中に眠る自然の力を目覚めさせ細胞レベルで体が活性化する事を意図している。「呼吸と声」は古代から続くメソッドであり、心を自己の内面におき、静かなる心で声を発する事で、生命の源の力と共鳴する事を意図している。
いつ想定外のことが起きるかわからない時代にあり、起きる前に一人一人が自分に向けて取り組むべきは「真実とまやかしを見極める目」「大切なことに気づく直観力」「自分を愛し人を愛する心」を養う事であると思う。サウンドヒーリング協会が提唱する3つのメソッドはこの「見極める目、直観力、愛する心」を養うために毎日取り組める方法である。この3つのメソッドを活かして「意志する力」を発揮し、意志では動かない「自分を動かす力」とつながることで知らぬ間に自分に変革が起きるのである。

外側の現実と自分を切り離す

毎春、日本と米国のセラピストが合流してカリブ海クルーズに参加している。世界中から約1,800人が参加する、Organicな野菜料理が提供される健康増進のHolisticクルーズである。客船は14万トンもあるイタリアの豪華客船MSC Divina。航海中のプログラムで人気のある体感音響サウンドヒーリングを担当し「やすらぎと活力」を提供している。船内に用意された会場にミニトリートメントの希望者が時間になるとつめかけ1日70〜100人限定で肩や腰のケアを座位で行う。我々にとっても自分に自信をつけるいい体験になっている。
ある時、面白い事が起きた。時間になっても電源を準備するMSCのスタッフが来ないのである。せっかちな希望者はイスに腰かけ待っている。考える間もなく「手のタッチで始めよう」とスタンバイしているセラピスト全員に声をかけた。皆、私の病気が完治した気功法を活かしたサウンドヒーリングタッチ(手でケア)の実技研修を受けている。待っている人達のざわついた会場の空気は、手のケアが始まった途端にシーンと静寂になった。その間に電源が準備され、ミニトリートメントを行ったのだが、素晴らしいと高い評価を得た。実は手は実技法の隠し味であり、この隠し味がセラピストの実力を語るのである。現代人たちが求めているものに、心と手が創りだす、静寂な時があることも感じた。問題と見える現実から自分から切り離し、慌てず「静寂な心」から生み出す手の技を発揮して、相手の感動を倍増させたセラピスト達は何より素晴らしかった。一人の穏やかな心が人の心に共鳴し、伝わっていったのである。それ以降、船の中ですれ違うと人々が「ピースフルピープル」と声をかけてくれる。One single moment can change world.
アインシュタインは「人の価値とは、その人が得たものではなく、その人が与えたもので測られる。」と述べている。体感音響サウンドヒーリングは音の振動を伝えるスピーカーと人の手(心)を組み合わせて行う実技である。実技を行うセラピスト自身が音で元気になり、実技の時間そのものが自分の人間性と直観力を磨き、互いを愛する道具なのである。人に行ない、与える時間の喜びを知る具体的な方法とも言える。日本発のこの道具と実技法、未来に続く「武士道の精神」として世界中に広めて行くのはどうだろう。人の内側から、戦争を起こさない心を養う効果的な抑止力になるはずだ。面白い・・と思う方、一緒にやりましょう。May peace be in your heart.

協会誌vol.33-34

サウンドヒーリング協会の協会誌2022年版(vol.33-34)が発行されました。

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