音の影響
意識して聴いている、いないにかかわらず、音は私たちの心身に想像以上の影響をもたらします。音の情報は耳をふさいでも、体全身から体内に入ってきます。
音は八方に拡散し、浸透して到達する性質を持ち、遮断しにくい刺激情報です。音は空気中を秒速340mで伝達しますが、水の中では秒速1,500mにスピードアップし、骨や鉄の中では5,600mと、さらに早くなる性質を持っています。 私たちの体は約70%の水と骨で構成され、体そのものが音の影響を受けやすい物質で成り立っているわけです。
しかし、現代の生活環境は、冷蔵庫やエアコン、自動車の音など、人工的な音(ノイズ)があふれています。そうした環境では、無意識に体に力が入り、ストレスを感じます。
一方、川のせせらぎや鳥の声、虫の音など、自然の音は、気分が落ち着く、リラックスできる。多くのかたが、そんな体験をしているのではないでしょうか。
音は、人間の快か不快の感覚を左右する大きな環境要素と見るべきでしょう。
私たち日本人の感性には、自然と調和し、慈しみ、季節の変化を楽しむという自然観が大きく影響しています。「自然はコントロールすべき」と考える欧米の自然観とは少し違うようです。
西洋とは異なった文化を育んできた日本人特有の感性は、五感から感じる快適感にも大きな影響を与えています。
日本の伝統的な楽器と西洋の楽器を比較すると、その感性の違いが表れています。
西洋の楽器は、音の純化や明瞭度の高い、大きな音が出ることを重点に発展してきました。
これに対し、日本の伝統楽器は自然の音に近い、音程を取りにくい噪音(そうおん)を重点に置き 、目立つ音よりも自然と融合する音をたいせつに発展してきています。
日本の伝統楽器が、自然の音に似た特性を生かして発展していることは、日本人の聴覚からの嗜好と心地よいと感じる感性が表れているように思います。
音の正体は、物理的に振動する波動です。ラジオやテレビに利用される電波、X線、光なども波動です。1秒間に振動する波の回数は、周波数(ヘルツHz)で表します。音は周波数が小さいほど低い音、大きいほど高い音になります。
ピアノの音域(周波数帯域)は27・5Hz(ラ)~4,186Hz(ド)なのに対して、自然音は10万Hz以上(超音波)の周波数まで含まれます。
CDに記録可能な2万Hzまででも、自然音の音域は幅広く、たくさんの周波数の音が同時に鳴っています。
また、自然音はいつも緩やかに変化する「1/fゆらぎ」と呼ばれる特性があり、私たちは心地よいと感じます。さらに、自然音には「倍音」が多く含まれています。倍音は音色にかかわる要素で、楽器では音程として聞こえる元の音(基音)の整数倍や非整数倍の周波数を指します。
倍音の少ない音は不自然で不快に、倍音の豊かな音は自然で心地よく感じられます。
「豊かな音域、ゆらぎ、倍音」といった自然音の物理的な特性の背後には、自然を生かす大きな生命の力、森羅万象の響きがあると私は思います。