効果と事例
私達人間は皆等しく母親の胎内で心音につつまれて約10ヶ月余りの時間を過ごす。地球の生命進化の30億年のプロセスを急ぎ足で経験しながら育っていく。耳が機能し始める4ヶ月半頃からは母の心音を安心できる環境の音と記憶し潜在意識のメモリーに蓄えていく。リー・ソルク(※1)らは新生児(102人)に安定した大人の心音(72BPM, 85db)を休むことなく聞かせる実験により、心音を聞かせた新生児グループの70%は体重が増え、気分がなだめられ、泣いている時間が少ないことを明らかにした。
大人になってからもゆったりとした安定した音を繰り返し聞くと人は安心し、やすらぎを感じる。その音を体感音響として体に響かせると、羊水の中で体に響いた音の記憶を想いだすのか、更に体の緊張がほぐれ、血液の循環がよくなり、手足が温かくなり、リラックス効果が高くなる。宮澤賢治の童話「セロ弾きのゴーシュ」のでは森の動物たちがゴーシュの弾くチェロの音の振動が野ねずみやたぬきの体に伝わり、血流がよくなり自然に病気が治るという場面がある。
音は空気中を波として秒速340mの速さで伝わるが、水の中では速度が早くなり秒速1,500mになる。金属や骨など固体の中では更に早くなり秒速5,000m以上となる。伝達速度が速い媒体の中では、音のエネルギーが減衰することなく周囲に伝わりやすい。約70%の水と骨で成り立つ人体は音が伝わりやすく、共鳴しやすい構造といえる。体の中に入った音は波として細胞一つ一つに細かな波紋を広げ骨や体液を伝わっていく。1秒間に20回から20,000回常に変化しながら振動する心地よい上質の体感振動が細胞レベルのマッサージを行っていると言える。特に27.5Hz~約220Hz近辺の低い周波数の音は頭部よりも胸部や腹部また下肢に共鳴しやすい。チェロの心に訴える音もこの低い音であり感動や満足感を倍増する帯域でもある。チェロの奏者はこの音の情報を空気振動による耳からと、チェロに触れる手や体の骨と水から伝わる体感振動によるものとの2つの音の情報を受け取っている。チェロを演奏する糸川英夫博士のボーンコンダクション理論の提言(1972年)から始まった体感音響装置の開発は体に心地よく響く低い音を、空気振動でなく直接体に伝わる体感音響として再現することを目的にしている。この開発に携わった喜田は1992年に手技療法として使える体感音響装置を考案し、更に小型化へ改良した手に持てる体感音響システムが医療や福祉、介護また美容の現場で現在利用され高い評価を得ている。補完代替医療や美容法を援助する道具としてである。この小型体感音響システムはセラピストが手に持ってクライエントの体の部位に当てて使う方法と、クライエント自身が自分でソファーやベッドなどで体の部位に当てる方法の2つの使い方がある。
この小型体感音響システムの利用者(約700名)からの主観的感想の中に、体が軽くなった、化粧がのりやすくなった、肌がつるつるしてきた、足が軽くなった、足のむくみがとれた、手足が温かくなった、など体の代謝に関連する報告が数多く見られる。今回、セラピストが行う施術方法により得られた未発表の結果をまとめ、顔面の水分量、掌と足の皮膚の温度変化からみた体感音響が与える体への影響を探ってみた。
その結果、顔面の水分量は額で30.3%から42.9%へ。頬で33.9%から37.2%へ、あごで33.9%から41.4%へと増加した。また手のひらの温度は29.67度から31.42度へと上昇した。また足の温度は親指先で21.4度から23.5度へ親指付け根で22.8度から24.65度へ人差し指で21.2度から24.85度といずれも上昇した。
この結果は体感音響により伝わる音波が体の細胞内や細胞外の体液また血液に響き、代謝が良くなったことによるものと推測する。薬に頼らず、自分自身に内在する力で健康を維持する人づくりに貢献できる可能性が見え初めてきたといえる。
Keywords:体感音響、サウンドヒーリング、Healing Vibration 、補完代替医療
※1 Lee Salk コーネル大学小児心理学博士